装飾音とは?前打音・トリルなどの記号と演奏の基本

楽譜の音符の前に小さな音符が付いていたり、音符の上に波線や「tr」が書かれていたりすると、「どの音を、いつ、何回弾くのだろう」と迷うことがあります。これらは多くの場合、メロディーを飾るための装飾音・装飾記号です。

この記事の結論

装飾音とは、中心となる音に短い音や音の動きを加えて、旋律に表情を付けるものです。小さく書かれた音符や、トリルなどの記号で表されます。

最初に主となる音と拍の位置を確かめ、装飾を外して弾いてから少しずつ付け足すと、リズムを崩さずに練習できます。装飾の正確な入れ方は、時代・曲の様式・楽譜の指定によって変わります。

ここでは初心者が楽譜で出会いやすい前打音、トリル、モルデント、ターンなどを整理し、具体的な読み方と練習方法を紹介します。

装飾音とは?普通の音符との違い

通常の音符は、音の高さと長さを示します。一方、装飾音は主音(中心となる音)の前後に短い音を挟む、近くの音へ素早く動く、同じような動きを繰り返すなどして、表現を豊かにします。ここでいう「主音」は装飾の中心となる音を指し、音階の第1音を意味する「主音(トニック)」とは区別します。

例えば、メロディーの中心が「ソ」のとき、直前に小さな「ファ」を添えて「ファ→ソ」と弾けば、ソへ向かう動きが生まれます。ただし「小さく書かれた音符は必ず拍の前に弾く」という決まりはありません。

POINT

装飾音は速く弾けば正解というものではありません。主となるメロディーと拍を聴き取れることが大切です。

代表的な装飾音と記号の読み方

楽譜では小音符のほか、文字や波線状の記号が使われます。以下は基本的なイメージです。実際の音の順序・開始位置・回数は楽曲の時代や演奏習慣でも異なるため、楽譜の注記や先生の指示があれば優先してください。

種類見分ける目印基本的な動き
前打音主音の前の小さな音符主音に入る前後に短い音を添える
短前打音斜線付きの小さな音符(一般的な表記)短く素早く主音へ進む
トリルtr、trに続く波線など主音と隣接音を交互に奏する
モルデント短い波線状の記号(縦線の有無あり)主音から隣接音へ動き、主音に戻る
ターン(回音)横向きのS字状の記号主音の上下の隣接音を回るように奏する

前打音・短前打音:主音の前に音を添える

主音の直前に小さく書かれた音符を弾く装飾です。一般に斜線の付いた小音符は短前打音(アッチャカトゥーラ)と呼ばれ、短く演奏します。斜線のない小音符は前打音(アッポジャトゥーラなど)として扱われることがあり、主音の音価を一部使う奏法もあります。

例として「小さなファ→大きなソ」と記された場合、ソに向かってファを添えます。ただしファを拍の直前に置くのか、拍の頭から弾いてソに進むのかは、記譜法や曲の様式に応じて判断します。

トリル:隣り合う音を交互に鳴らす

「tr」はトリルの代表的な表記です。通常は記された音と、音階上で一つ上の隣接音を交互に演奏します。例えばハ長調で「ソ」にトリルが付いていれば、基本的な練習例は「ソ・ラ・ソ・ラ…」です。

ただし歴史的な演奏法では上の音から始める場合もあり、終わりに補助的な音形を付けることもあります。開始音と終わり方を楽譜の注記や演奏様式で確認するのが確実です。

モルデント:隣接音へ一度動いて戻る

モルデントは短い波線のような記号で示される装飾です。現代の一般的な記譜では、縦線のない記号は上の隣接音、縦線付きの記号は下の隣接音を用いることが多くあります。

  • 上の隣接音を使う例:ソ→ラ→ソ
  • 下の隣接音を使う例:ソ→ファ→ソ

ただし、古い楽譜や用語の慣習では呼び方・記号の解釈が逆になることがあります。特にバロック音楽では、現代的な記号説明だけで決めつけないようにしましょう。

ターン(回音):上下の音を回るように弾く

ターンは主音の周囲を回る装飾です。基本形の例として、ソを中心に「ラ→ソ→ファ→ソ」のように動きます。逆ターンではその順序が反対になります。

記号が音符の真上にあるか、音符と音符の間にあるかで、演奏を始める位置が変わることがあります。まずは音の並びと拍への収め方を別々に確認しましょう。

装飾音は拍の前に弾く?拍の中に弾く?

装飾音で最も間違えやすいのは、小音符の大きさだけで拍の位置を判断することです。装飾が拍の直前に入ることも、拍の頭から始まることもあります。

拍の位置を判断する順番
1.楽譜の指定を見る

音符の斜線、スラー、テンポ、作曲者・編曲者の注記、装飾記号の位置を確認します。

2.曲の時代・様式を確かめる

バロック、古典派、ロマン派以降、ポピュラー音楽では装飾の扱いが同じとは限りません。

3.主音と拍を崩さないか確認する

伴奏やメトロノームと合わせ、装飾によって次の拍が後ろへずれていないか聴きます。

初心者は、装飾を外した旋律で拍の位置を確認してから、記譜や様式に合った場所へ付け足すのがおすすめです。装飾音があるからといって小節全体の拍数が増えるわけではありません。

初心者向け|装飾音を自然に弾く4ステップ

STEP 1|装飾を外して主旋律を弾く

小音符・装飾記号をいったん除き、大きく書かれた音符の音程とリズムを確認します。小節の頭と強拍を意識してください。

STEP 2|装飾の音だけをゆっくり並べる

例えば「ソ→ラ→ソ」のモルデントなら、3音を均等な速さで確実に鳴らせるか練習します。最初から速く弾く必要はありません。

STEP 3|拍の中で主音とつなげる

伴奏かメトロノームの拍を感じながら、指定されたタイミングで装飾を入れます。うまく収まらない場合はテンポを落とします。

STEP 4|装飾の前後を含む1フレーズで確認する

装飾した音だけでなく、前の音から次の音までを通して弾きます。録音して、旋律がつながるか・拍がずれないか確認しましょう。

短い練習メニューの一例

1つの装飾について「装飾なし2回→ゆっくり装飾あり3回→前後の小節と通して2回」と試します。回数は編集上の練習例であり、上達に必要な回数の保証ではありません。音が不明瞭なら回数を増やすより、先に音の並びを見直します。

楽器によって装飾音の弾き方はどう違う?

楽器練習のポイント注意点
ピアノ・鍵盤隣り合う鍵盤を無理のない運指で素早く移る指に力を入れすぎず、主旋律の拍を保つ
ギターピッキングとハンマリング/プリングを曲に合わせて選ぶ装飾の途中で音量が極端に小さくならないようにする
バイオリンなど弦楽器左手の指の動きと弓の流れを分けて練習する手を固めず、音程の正確さを優先する
フルートなど管楽器指の切り替えと息の流れを合わせる不要なタンギングや息切れで旋律を切らない
歌母音を保ちながら装飾する音程を確認する無理に速く回さず、声に負担をかけない

どの楽器でも最初は明瞭な音程と拍が先、速さは後です。痛みや強い負担を感じる場合は中断し、フォームを見直してください。

装飾音がうまく弾けないときの原因と対処法

困りごと考えられる原因直し方
装飾を付けるとテンポが遅れる主音や次の拍の位置が曖昧装飾なしで拍を数え、遅いテンポから再開する
音の順序が分からなくなる記号の解釈が不明なまま弾いている使う音をドレミで書き出し、楽譜の指定を確認する
トリルの音がそろわない指・息・弓の動きが力んでいる2音の往復だけで動きを小さく練習する
装飾だけが目立ちすぎる主旋律より大きく、長く演奏している装飾を短く整理し、前後のフレーズを通して聴く
記号の解釈で迷ったとき

異なる楽譜や演奏で装飾の入り方が違っていても、必ずしも片方が間違いとは限りません。特に古典作品は校訂版の注記、作曲年代、当時の奏法で解釈が変わります。学習中の曲では担当の先生や信頼できる校訂資料の指定を優先してください。

装飾音についてよくある質問

装飾音は必ず弾かなければいけませんか?

楽譜に記載された装飾は、原則として表現上の指示・作品の一部として尊重します。ただし初心者が練習するときは、一時的に装飾を省いて拍と主旋律を理解してから戻す方法が有効です。最終的に省略してよいかは、作品の様式や演奏目的によります。

トリルは何回往復すればよいですか?

回数が固定されていない場合、記された音の長さ、テンポ、時代様式、技術的な無理のなさによって変わります。回数を増やすより、音の粒と拍をそろえることを優先してください。

装飾音とスタッカートは同じですか?

違います。装飾音は主音の周りに音の動きを加えるもので、スタッカートは音を短く切り離して演奏するアーティキュレーションの指示です。装飾音の付いたフレーズにも、別途アーティキュレーションの指示が付くことがあります。

装飾音を読むときに最初に覚えたいこと

装飾音の記号を一度に暗記するよりも、楽譜で見つけた装飾を「中心の音」「加わる音」「拍の中の位置」に分けて考える方が実際の演奏につながります。

最終結論

装飾音は、主となる音に短い音や音の動きを加えて、旋律に表情を付けるためのものです。前打音・トリル・モルデント・ターンなどは、記号を見分けたうえで音の順序と拍の位置を確認します。

最初は装飾なしで旋律を弾く → 装飾の音をゆっくり並べる → 正しい拍の位置で入れる。

今日の練習では、手元の楽譜から装飾を1つだけ選び、前後1小節を含めてゆっくり演奏してみましょう。自然につながり、拍が変わらなければ次のテンポへ進めます。